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2013/07/03

No.1をめざせ その2

連載、続き。


「あ、ありえないわありえないわ敦賀さんとショータローなんて!」
叫びから一転、キョーコはぶつぶつと呟きはじめる。
「敦賀さんなんて、ショータローの名前を口にするだけで不機嫌になるのに!同じ番組で対決するなんて!」
魔王降臨、という四文字が脳裏に浮かび、キョーコは青ざめる。
自分がショータローを前に冷静でいられるか、という問題より、こちらの方がずっと恐ろしい。

しかし問題はそれだけではないのだ。
「しかもこの番組、ブリッジロックの石橋お兄さんズが司会なのよね。それってすっごくまずいじゃない!」
ブリッジロックが司会を務める『やっぱきまぐれロック』。
それにキョーコが坊として出演しているのだ。
記念すべき第1回目のゲストであったショータローを前にして、我を忘れたキョーコが坊の姿で襲いかかったという苦い過去があるのだ。
「ショータローに坊が私なんて知られたらまずいじゃない!!」
それに、坊がキョーコであることがばれると困る相手はショータローだけではない。
キョーコは坊の姿で、蓮の恋愛相談にも乗っていたのだ。
着ぐるみで顔が見えないのをいいことに、全く知らない人間のフリをしてタメ口でしゃべり、あまつさえ恋愛話までした蓮に正体がばれるなんて、想像するだけで血の気が引く。
「ひぃぃいい!まずい!まずいわこれは!」
決して知られてはいけない2人の前で、ブリッジロックのメンバーからいつ坊の話題が振られてもおかしくない。
(まず石橋お兄さんズに口止めして、絶対にばれないようにしなくっちゃ……!)
キョーコは持っていた書類をぎゅうっとにぎりつぶす。
握った手は、ぶるぶると震えだす。

「も、最上くん……?」
キョーコの大音量の叫びで受けたダメージからようやっと回復した椹が話しかけるが、キョーコの耳には入らない。

「それにそれに!もっと大きな問題があるじゃない!2人が料理対決ですって?」
キョーコはいつか、蓮が作ってくれた「マウイオムライス」を思い出す。
あれは……怪物。
あまりにも不味いため、思わず発する「マズイ」が「マウイ」としか発音するできなくなるほどのシロモノだ。
思い出すだけで、胸ヤケがしてくる。それどころか、あれを食べきった蓮など、死神にカウントダウンをされていたほどだ。
蓮はあれをわざと不味くなるように作ったと言ってはいたが、同時に「あれがほぼ実力だ」とも言っていた。
「あれから敦賀さんの料理の腕が上がったなんて考えられない、わ……」
キョーコはがっくりとうなだれる。

そしてショータロー。
老舗旅館の1人息子として育った彼は、いいモノを食べて育っているために舌は肥えている。
おいしいモノとそうでないものの判別はきちんとできる。のだが。
彼自身が厨房に立つということはなかった。
キョーコの記憶にあるとすれば、小学校のころ、旅館の厨房でままごとの延長のようなことをした程度だ。
音楽を始めてからは厨房に近寄ることすらしていないし、ショータローの両親も強制したりはしなかった。
上京してからもキョーコが全ての面倒を見ていたし、その後も自炊をしているとは到底考えられない。
「ショータローも似たようなレベルだわ……あの2人がまともに料理なんて出来るわけがないじゃない……」
しかも生番組でしょう?
何て無謀な事を考えるのプロデューサー!あなた2人の何を知ってこんな企画を立てたんですか!
あまりの無謀さに、キョーコは真っ青になりながら、心の内でまだ合ったことのないプロデューサーを責めた。

「椹さん!」
「なっ!何かねっ?」
思考の渦に入り込み、反応がなかったキョーコの目の前で手をかざしたり手を叩いてみたりしていた椹は、突然呼びかけられて飛び上がる。
そんな椹の肩をキョーコはがっしりと掴む。
「この話、お断りさせて頂きます!」
鬼気迫る、まさに鬼の表情で迫られ椹はおびえるが、震える声をひねり出す。
「ざ、残念だが断るのは無理だ。もう決まってるんだよ、最上くん」
「え……?」
「実はプロデューサーが来たときにちょうど社長が居合わせてね。話を聞くなり「こんなビックチャンスは二度と無い!」って二つ返事でOKしちゃったんだよ」
「嘘でしょおおおおおお!」
キョーコは椹の肩を掴んだまま、体を前後に揺する。体を揺すられ、椹は頭をぐらぐらさせながらも続ける。
「嘘じゃない!契約書にもサイン済みだ」
「え……」
椹の言葉に、キョーコの動きがぴたりと止まる。
未成年、さらに保護者である母の同意を得ずに活動するキョーコは、社長が保護者の代理を務めている。
その社長が契約書にサインをしたとなれば、それは決定なのだ。
もし契約を破棄しようものなら、こんなデビューしたてのぺーぺータレントなど、どこも使ってはくれないだろう。
キョーコは椹の肩を離し、すとんと力なくソファに座った。

「最上くん……?」
力をなくして座り込んだキョーコを心配して椹がのぞき込むと、キョーコはぱっと顔を上げた。
「というか、そもそも殺人的に忙しい敦賀さんと同じように忙しいかもしれないショータローがそろってこの番組に出られるとは決まってないのよね!そうよ!」
どうやら新たな逃避を始めたようである。
「私が出る、出ない以前の問題よね。きっとメインのどちらかがスケジュールの都合で出演できなくなるのよ!そうよ!」
キョーコは希望を見いだし、目をキラキラと輝かせる。
しかし……
「残念だがそれはない。ずっと前からこの日は2人ともフジの24時間テレビにどの時間に呼ばれてもいいように、スケジュールを調整してある。他の名のあるタレントたちもそうだ」
椹の容赦無い一言が、キョーコを石化させる。
「もちろん、ブリッジもだ。そして君には他に予定も入っていないし、断る理由がない」
石化したキョーコは、がらがらと崩れ落ちる。

「あー……大丈夫かね、最上くん」
「大丈夫じゃないです……」
崩れ落ちてから数分、なかなかキョーコが浮上してこなかったが、何とか話が出来るまでに回復する。
「どう考えても危険極まりない企画じゃないですか……」
キョーコはギロリ、と椹を睨む。睨まれた椹はびくりと肩をふるわせる。
「も、もちろん、ブリッジには君が坊だと言うことは伏せるように言っておくよ。関係者には箝口令を敷く」
「それはもちろんです」
椹はきっと、蓮とショータローの関係がよくないことも、2人の料理経験値が酷いことも知らない。
キョーコはひっそりと溜息をついた。
「とにかく、君にとっては大きなチャンスであることは違いないんだから。色々思うところはあるかもしれないが、がんばってくれ!」
頑張るもなにも、キョーコにはすでに拒否権はない。
キョーコはまた、溜息をついた。今度のは椹にも聞こえたらしい。

「そんな落ち込まなくても……ほら、いいことだってあるぞ」
落ち込むキョーコを励まそうとしたのか、椹はぐしゃぐしゃになった書類を伸ばし、何枚目かをキョーコに提示する。
「2人が作る料理は、君が指定していいそうだよ」

どんな料理を頼んだところで、どんな結果になるのかは想像がつく、気がする。
それならば少しでも、と。
キョーコは力なく、「ハンバーグで」と返事をしたのだった。



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完結:No.1をめざせ

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