2015/05/11

ひつじまくらは地雷原。

ザ花番外編のひつじまくらのお話。
あの雑誌インタビューに至るまでに蓮さんと社さんでこんなやりとりをしていたら楽しいのに、ということで一投!




「明日はそんな流れになるから、8時にマンションに迎えに行くよ」
「分かりました」
仕事が終わり、帰路についた蓮が運転する車内で行われるのは、仕事の打ち合わせ。
仕事先から家に直帰する時、社を駅まで送るまでが打ち合わせの時間だ。
明日の予定の確認と新たに入った仕事の確認が行われる。

「それから、新しく雑誌の独占インタビューの依頼が来ていたぞ」
「今度はどの雑誌ですか?」
雑誌のインタビューもよくある仕事の一つだ。
しかし雑誌の種類によって質問内容の傾向も違えば好まれる回答も違ってくる。
社は手帳を確認してから答える。
「Fleur(フルール)っていう女性向けファッション雑誌だな」
「確か以前にも受けたことがありましたよね」
「そうだな。あ、今回は予め質問用紙をもらってるぞ。できれば回答に沿ったお前の私物を一緒に撮らせて欲しいってさ」
「ちなみにどんな質問ですか?」
蓮に尋ねられ、社は鞄の中からA4サイズの封筒を取り出して書類を引っ張り出す。
「えーっと。色々質問はあるみたいだけど、画(え)が欲しいのはこれ……「もし無人島に何か3つだけ持っていくとしたら何を持って行きますか?」だってさ」
「無人島に、ですか」
「編集部も色々考えるよなぁ」
言いながら社は書類を封筒に戻す。
「これ、封筒ごと預けておくから。なるべく早いうちに回答作っといてくれよ。あと、持っていく私物も決まったら俺に見せてくれ」
「分かりました」
一通り打ち合わせが終わったところで、ちょうど社を降ろす場所に到着する。
「じゃ、明日8時にな」
「はい。お疲れ様でした」
いつもの挨拶をして別れた後、蓮は自宅に向かうために車を発進させた。


翌朝。
約束の時間5分前に蓮のマンションに到着した社がインターホンを押すと、すぐに蓮が出てきた。
「おはよう、蓮」
「おはようございます、社さん」
いつも交わされる朝の挨拶。
そしていつものように社はリビングへと移動して仕事内容の確認にうつろうとしたのだが、リビングのテーブルに昨日預けた封筒とその中身がひろげられていることに気が付く。
「蓮、ひょっとして昨日渡したあれ、もう決めたのか?」
「はい。忘れないうちにやろうと思いまして」
「そっか。それなら先にそっちを確認させてもらおうかな」」
言って社は先に回答の確認を始めたのだが、途中で紙面から視線を蓮に移す。
「……そういや、例の無人島に持っていくとしたら、ってやつは決まったのか?モノも含めて」
「はい、そちらにも書いていますが……」
社はぺらりと紙をめくり、目的のページを探し当てる。

「お、これだな。えーっと、一つ目はサバイバルナイフ。理由は生き抜くために何にでも役に立ちそう、ね。妥当だな」
うんうんと頷く社に、蓮は予め用意してあったコーヒーを運んでくる。
「二つ目は腕時計で、三つ目は……安眠まくらぁ?」
回答を読んでいた社が、すっとんきょうな声を上げる。
「安眠まくら、って何でまた?」
「やっぱり眠るにはまくらが必要でしょう?」
「まぁそれはそうだけど。別にわざわざ無人島に持っていかなくても……」
「実は先日、いつでもどこでも上質な睡眠を提供してくれる安眠まくらを頂いたんですよ。いちど使い始めると、手放し難くて」
自分の分のコーヒーをテーブルに置きながら「見ますか?」と蓮が尋ねたので、社はうなずく。
「じゃあ今、一緒にモノの確認もさせてもらうよ」
「わかりました。持ってきますね」
そう言って蓮は、寝室の方へ消えて行った。

「これです」
「え……?」
蓮が持ってきた「安眠まくら」に、社は言葉を失う。

蓮の腕にあるのは、それはそれはかわいらしい羊の形をしたまくらなのである。
目を閉じて、穏やかに眠っている表情の淡いピンク色の羊の形のそれ。
たしかにほわほわとしており、使い心地はよさそうではあるが……
なぜそれが「敦賀蓮の腕の中に?」と問いたくなるくらい、ミスマッチだ。

「何でこれ?」
「いけませんか?」
思わず尋ねたのだが、蓮に尋ね返された社。即座にマネージャー魂が覚醒する。

敦賀蓮に、ラブリーな羊のまくら。全くイメージに合わないものだが……
実年齢より大人の魅力で売っている蓮の別の一面を見せることができ、これまで興味のなかったファン層を獲得できるチャンスなのではないか。
世の中にはギャップに弱い女性も多いと聞く。
蓮がこんな可愛いものを持っていると、「実は敦賀蓮にこんな可愛らしい一面があったなんて」とこれまで興味を示さなかった人が興味を示してくれるのではないだろうか。
何より蓮が希望しているのだ。
たとえ「蓮は可愛い羊グッズが好きなのねw」と判断したファンから膨大な羊グッズが送り付けられ、その整理と処理に追われることが容易に想像できても、蓮の意思を尊重すべきだろう?

「わかった。それでいこう」
一瞬でそれだけのことを考えた社は、蓮に向かって大きくうなずく。すると蓮はにっこりとほほえんだ。
「ありがとうございます」
「いや、お前がそうしたいって言うのなら尊重しなきゃいけないしな。意外性があっていいんじゃないか」
「そうですか?」
「んー、でも……」
社は目を細めて、蓮を見る。
「何でこれなんだ?今までこういうイメージ外のものを出そうって考えたことはなかっただろ?」
「そうでしたっけ?」
「ああ。こういうインタビューにはいっつも無難なのを選択して出してただろ?何か心境の変化でもあったのか?」
「いえ、別にそんなことはありませんよ」
いつもと変わらない様子でコーヒーを飲む蓮だが、社は引き下がらない。
「それとも……このまくら、貰ったって言ってたよな。もしかして出所に理由があるのか~?」
「え……?」
何の根拠も考えなく社は言ったのだが、蓮が一瞬フリーズする。
「……もしかして、あたりか?」
「……やだなぁ社さん。何を言ってるんですか」
きゅらきゅらきゅらきゅら。
フリーズからとけた蓮は、きらきら輝く極上の笑みを浮かべる。
「出所なんて、関係ありませんよ」
にっこり笑って全否定。この笑顔に世間はころりとやられてくれる。

しかし付き合いの長い社にそれは通用しない。
「普通ならああそうか、って言ってやりたいところだけど。お前が無駄にいい笑顔をしているときはどうにも嘘くさいんだよな」
「嘘くさい、って……」
何を言うんです、と蓮がこぼしたその一瞬の隙に。
「ていっ!」
社は蓮の腕から羊のまくらを奪い取る。
「あっ!社さん。何をするんですか!」
「ふふふふ……この羊の命が惜しければ、出所を洗いざらい吐くがいいさ」
「羊の命、って……社さん、携帯電話とちがってそれは機械じゃありませんから、壊れませんよ」
以前携帯電話を人質(モノ質?)にとられて脅された蓮だったが、今回は落ち着いている。
社はちっと小さく舌うちすると、方向性を変える。
「そりゃそうだが……お前が言わないというなら、これを出すのを許可しないし」
「許可されないというのなら仕方がないです。別のものに変えますよ」
「……じゃあ、このまくらがいつでもどこでも上質な睡眠を提供してくれるというのを確かめるために、俺がこのまくらを思う存分使うぞ?」
「え?」
蓮の動揺を社は見逃さない。きらり、と社のメガネが光る。

「さぁ蓮、俺に思う存分すりすりされたりよだれをつけられたりしたくなければ……」
「やめてください社さん!それは大事なものなんですからっ!」
蓮が焦るさまを見て、これは大あたりだと社はにやりと笑う。
「ほほーう。大事とな!」
「そうですよ!だから早く返してください」
取り返そうと手を伸ばす蓮からまくらを遠い位置に移動させながら、社はちょっとした思い付きを口にした。
「ひょっとしてこれ、キョーコちゃんからのプレゼントだったりするとかー?」
ぴたり、と蓮の動きが止まる。
(え?まさかストライク?)
からかいのつもりだったのに図星だったらしい。
(そういえばバレンタインの時にキョーコちゃんが楽屋でこれがちょうど入りそうな箱を蓮に誕生日プレゼントって言って渡してたっけ?)
社はそのことを思い出した一方で、蓮が動きを止めてしまったことに焦り始める。

「ず、図星か……?」
社が恐る恐る尋ねると……下向き加減だった蓮が、ゆっくりと顔を上げる。
「……だったら、どうだっていうんですか?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
蓮の足もとから、見えない何かがせりあがってくるような気配がする。
(ヒィイイイイイイイイイイイ!!!)
有無を言わせぬ無言の圧力に、社はもはや涙目だ。
「わ、分かった返す!返すからっ!!」
社は慌てて、蓮の腕の中にまくらを戻した。
ぼすりと押し付けられるようにして戻ったまくらを蓮は一度ギュッと抱きしめる。
「ご理解頂けて、よかったですよ」
張り付いた蓮の笑みは、やはりきゅらりきゅらりと無駄に輝くもの。
社はこのまくらがとんでもない地雷原であると悟り、今後一切触れるまいと誓ったのだった。

それから一週間後。
雑誌のインタビューと撮影を終えた蓮がその羊のまくらを持ち歩き、人気のないロケバスや休憩所で使用する姿が度々みられるようになったのだが。
社は決してそのまくらに、さらに言えばそのまくらが入ったかばんにさえ手を触れることがなかったのだという。

【END】

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どうあっても、ヤッシーは不憫なのです。
あと、勝手なイメージでひつじまくらはピンク。
蓮さんにミスマッチ&キョーコさんの趣味=ピンクかなぁと。


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