2016/04/16

ガラパゴスに生きる。

メモに入れて忘れていたお話。
(そしてこちらに書きかけて一か月近く放置していた)
おそらくもうすでにどなたかは書かれてるんじゃないかなと思いつつ。




「そうだ最上くん」
タレント部でスケジュールの確認を終え、ラブミー部の部室に帰ろうとしたキョーコを呼び止めたのは椹だった。
「はい?」
「君、今でもガラケー使ったよな」
「ガラケー?」

首をかしげたキョーコを見て、「そういえばこの子は事務所から支給されて初めて携帯も持ったんだった。現代の若者には滅多に見ない稀な子だった」と椹は思い出す。
「ああ、君の使っている携帯のことだよ。二つ折りでボタンがついているだろう?」
「はい。ですがそれがガラケー、なんですか?」
キョーコは再び首をかしげる。本当にこの子は携帯に執着しておらず、現代の若者には珍しいよなと感心する。
「ああ。世界的にはスマホが出始めていたころ、日本ではその二つ折り携帯の携帯の進化が進んでいてね。まるでガラパゴス諸島のような特別な進化形態だと話題になって、そう呼ばれるようになったらしいんだ」
「そうなんですか。それで、このガラケーがどうかしたんでしょうか?」
キョーコが自分の携帯を出して椹に尋ねると、椹はにこりと笑った。

「そろそろスマホに機種変してはどうかな、と思って」
「え?」
キョーコは、驚きの声を上げる。
「別に機種変更をする必要性は感じていませんが……」
電話をするにはこれで十分だし、限られた人と少ししメールもしないキョーコにとって、今の携帯で不自由だと感じたことはない。
「でも君、マネージャーもついていないだろう。仕事先への移動も公共交通機関を使ったり、自転車で行ったりしているだろう」
猛スピードで走り抜けるのは関心はできないけどね、と椹が付け足したので、キョーコはバツが悪そうに笑う。
「その時に目的地までの経路を調べたり、地図を確認したりするだろう?携帯を使って」
「はい!駅やバス停まで行く前に確認ができるのでとても便利です!」
「だけど、スマホの方がもっと便利なんだよ。ほら」

椹は自分のスマホを取り出してキョーコに提示する。キョーコが画面を覗き込むと、画面にはLME事務所付近の地図が示されていた。
「たとえば、Aスタジオまでのルートを調べると……」
椹が検索バーにキーワードを入力すると、一瞬にして画像が切り替わり、Aスタジオ付近の地図が表示される。
さらに、椹が画面をタップすると、Aスタジオまでの交通機関候補が次々と表示された。
「凄いですね!一瞬でこれだけの情報が出るなんて!」
キョーコが声を上げると、椹は嬉しそうにうんうんと頷いた。
「そうだろう。ついでに周辺にあるお店なんかも簡単に検索できるぞ」

椹に言われて、キョーコは昔、蓮の代理マネージャーをしたときに風邪対策グッズを買いに回ったことを思い出す。
あの時はビジネス街でのロケだったから色々揃えるのが大変だったけど、スマホがあればもっと楽だったかな、とキョーコはふっと笑いをこぼす。

「触ってみるといいよ」
椹にスマホを手渡され、キョーコはためらいながらも画面に触れる。
「そこはすっと画面に指をスライドさせて」「とんと軽く触るのをタップというんだ」などと時々入る椹の指示に従って、キョーコはスマホを操作する。
自分の携帯よりもきれいな画像が一瞬にして次々と切り替わっていく様に、キョーコは感心するばかりだ。

「どうだね、スマホは」
「はい!とっても便利ですね!」
「他にも複数の友人とグループでやりとりができたり、いろんなゲームができたりと便利だぞ。機種変更、してみるかい?」
椹に尋ねられて、キョーコは少し考える。
「あ、でも……中のデータはどうなるんでしょうか?電話帳とかメールアドレスとか」

まだまだ登録数は少ないとはいえ、あれをイチから登録しなおすとなると手間なのだ。
キョーコが心配そうに尋ねると、椹はにこりと笑った。
「ああ、それなら心配ないよ。電話帳のデータはちゃんと引継ぎができるからね」
「そうなんですか?それなら……」
「お!変更してみるか!」
「はい。よろしくお願いします」

キョーコがぺこりと頭を下げると、椹はにこにこ笑う。
「じゃあさっそく手続きを進めよう。でも今日すぐにとはいかないだろうから、今日帰ったら画像のデータとかで必要なものがあれば別に保存しなおしておくといい」
「え?」
「え?」
キョーコの声に、引き出しから出した書類の記入を始めていた椹が顔を上げる。
「何か不都合でもあるのかい、最上くん」
「あ、いえ……今画像のデータを別に保存、っておっしゃったので」
「ああ、言ったけど」
「もしかして、画像のデータの引き継ぎはされないんですか?」
「ああ。だからパソコンや別の機器に保存をしておかないといけないんだよ」
「じゃ、じゃあパソコンとかそいう機器を持ってない人間には、データを残しておくことは不可能ってことですか?」
「……まあ、そういうことになるかな」
椹が答えると、キョーコはばんっ、と椹のデスクを叩く。
「そっ!それなら私、お断りします!機種変更!」
「え?」
「お話、ありがとうございました!それじゃあ、失礼しますっ!」

キョーコは勢いよく椹にお辞儀をすると、踵を返して逃げるようにタレント部門を後にする。
「お、おーい!最上くーーん」
後に残ったのは、椹のむなしい呼び声だけだった。


(困る!困るのよ画像が消えちゃったら!)
すれ違う人々が振り返らずにはいられない勢いでLME内を歩き、ラブミー部の部室に入ったキョーコは、扉を閉めるとその扉に背を預けそのままずるずると座り込んだ。
「困る、のよ……」
ポケットから携帯を取り出して呼び出したのは、いつかこの部室で撮った蓮の写真。
誕生日にプレゼントした羊の枕を使い、眠っている蓮の無防備な姿だ。
キョーコの秘密の宝物であるこれを、携帯の機種変更によって失うわけにいかない。

「これを消されちゃうくらいなら、スマホになんて機種変更しないわ!」
ぱたんと閉じた携帯を手に、キョーコはすっくと立ち上がる。

「そうよ!進化なんて必要ないわ!私は一生、ガラパゴスに生きるんだからーーーーー!」

キョーコの叫びは廊下まで届き、通りすがりの人々を騒がせたのだった。

【END】


ショータローも蓮さんも社さんもいつの間にかスマホになってたのでキョーコさんもいつかは変更するのかなーと。
久しぶりにお話を書くのも楽しかったです。


素敵スキビサイト様への玄関口。
スキビ☆ランキング
関連記事
短編 | Comments(0)
Comment

管理者のみに表示