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2015/01/17

君の引力

『硝子ノ森』に関するお話。
初の映画出演で二役することになり、ひそかに悩むキョーコさんの元を訪れた蓮さんのお話。

『硝子ノ森』についてはこちら
新開監督の新作映画、蓮さん主演、キョーコさんがヒロイン(二役)という設定。



「キョーコちゃん、役作りに悩んでるみたいだよ」
社からもたらされた情報に、蓮は眼を丸くする。

先ほど、新開監督の新作映画『硝子ノ森』の制作発表会が行われた。
新開や蓮はもちろん、他の共演者たちも映画出演は豊富なメンバーの中で、初の映画出演でヒロイン役、それが二役という異例の配役はまだ新人の域を出ないキョーコにとっては相当なプレッシャーとなるのではと蓮も予想していた。
しかしそんなプレッシャーを感じさせないほどの堂々とした会見を行ったキョーコ。
その後蓮と会話を交わしていてもいつもと変わりはなかった。
それどころか役の話をしていたはずなのにいつの間にか話題は変わり、蓮は食生活についてお説教をされてしまったほどだった。

(とても、悩んでいる風に見えなかったな……それも、あの子が成長した証、かな)
キョーコは今楽屋にいると社から聞いた蓮は足早にキョーコの楽屋へと向かう。
「京子様」と書かれた札がかかった楽屋の扉の前で、蓮はふっと息を吐くと扉を軽くノックした。
するとすぐに「はぁい」という声と共に扉が開かれる。

「敦賀さん!」
「休んでいるところごめんね。ちょっといいかな?」
「あ、はいっ!」
突然の蓮の来訪にキョーコは驚いたようだったが、すぐに扉を大きく開いて蓮を楽屋に招き入れてくれる。
「お邪魔します」
「どうぞ」
扉を閉めたキョーコはすぐにお茶の準備に取り掛かる。
蓮は遠慮しようとしたが、口を開く前に「先輩にお茶もお出ししないなんて、失礼極まりないですから。座ってお待ちください」とぴしゃりと止められる。
先手を打たれて蓮は苦笑いしつつ、ソファに座る。お茶を入れるキョーコの姿を眺めながら、さてどうやって話を切り出そうかと考えるのだった。

「どうぞ」
「ありがとう」
ついっ、と差し出された湯呑からは、ふわりとお茶のいい香りがたち蓮の鼻を刺激する。
自分の分もテーブルに乗せたキョーコは、蓮と向かい合う位置にあるソファに座った。
「それで、敦賀さん。何かご用でしょうか?」
先ほどの発表会で何か粗相をしました?とお盆で顔を隠しながらキョーコは恐る恐る尋ねる。
小動物さながらの姿に、蓮の顔は緩みそうになるが、ぐっとこらえる。

「いや……発表会は何の問題もなかったよ。時間も短くて、俺たちが話す時間もほとんどなかったしね」
「はい」
『硝子ノ森』は新開監督の新作というだけでなく、脚本が有名脚本家の書きおろしということでも話題を呼んでいる。
どんなストーリーなのかあらすじもほとんど公開されていない上に、ストーリーの全貌は限られたスタッフのみしか知らされていないという、秘密めいた作品なのだ。
制作発表会も「話しすぎると楽しみが減る。劇場公開を楽しみにしてほしい」という新開監督の意向で、内容の説明も出演者のコメント時間も大幅に短縮されていたのだった。
「むしろ初の映画出演でヒロインに大抜擢。二役もこなさなきゃいけないプレッシャーを抱えてるとは分からないくらい、堂々とコメントできていたよ」
頑張ったね、と蓮が褒めると、キョーコは顔を赤らめて俯く。
「ありがとう……ございます」
「でも、本当に大丈夫?役作りの方は進んでる?」
蓮が直球勝負に出ると、キョーコの表情がぴきん、と固まる。
「……最上さん?」
「あ」
蓮に呼ばれて、キョーコが我に返る。
「……やっぱり悩んでる?」
「あの……えっと」
キョーコはさっと目線をそらす。蓮はそれを見てため息をこぼした。
(俺には……知られたくなかったってことか?)
これまでも何度か役作りの相談にも乗ってきたし他の誰よりも近い位置にいると思っていたのに、ここで距離を置かれるのかと蓮は落ち込み、もう一度ため息をついたのだが。
キョーコはそれを「ダメ息」と解釈したらしく、がばりと頭を下げた。

「敦賀さん!役作りができてもいないのにさもできたかのようにふるまって、不快な思いをさせてしまって申し訳ありません!!」
「あ……いや」
深々と頭を下げたキョーコの肩は震えている。
「最上さん、顔を上げて?それは俺に謝らなきゃいけないことじゃないだろう?」
「でもっ!」
がばっと顔を上げたキョーコの瞳は、潤んでいる。
「敦賀さん、ダメ息をついてらっしゃったじゃないですか……」
「(う……)いや、それは最上さんの振る舞いについてじゃなくてね。役作りで悩んでいるなら相談してくれればよかったのに、って思ったからね。俺じゃあ頼りにならなかったかな?」
ずるい言い方だと自覚しながら蓮が言うと、キョーコは急に立ち上がった。
「そんな!頼りにならないなんてとんでもない!むしろ敦賀さんには真っ先に相談しています!」
拳を握りしめて力説するキョーコ。自分を頼ってくれているのだという喜びが胸に湧き上がると同時に、疑問も浮かぶ。
「それならどうして相談してくれなかったのかな?」
疑問を口にすると、塩をかけられた青菜のようにキョーコはしおしおと力が抜け、すとんとソファに座った。
キョーコは俯いて黙ったままだ。蓮はじっくりとキョーコの言葉を待つ。

「……相談、しにくかったんです」
「え?」
ややあってから、キョーコがぽそりと話し始める。
「だって……私の演じる沙都子も沙惠子も、それぞれ違った魅力で浩一を森にひきつけなければいけないんですよ」
「そう、だね」
「それをどうやったらいいか浩一を演じる敦賀さんに尋ねるのは……何だかずるをしてしまっているいみたいで……」
「なるほどね……」
キョーコの言い分は蓮には十分理解できた。けれど、大切なのはそこではない。

「君の考えはよく分かるよ。でも、大事なのはいい作品を作る、ということだろう?」
「はい……」
「この映画に関わる人たち、それから制作を楽しみにしている人たちのためだと思って……話してみない?」
蓮がやさしく声をかけると、キョーコは俯いたまま、こくりとうなずいた。

「なかなかイメージが固まらないんです」
「二役演じるということが?」
「いえ……」
キョーコは顔を上げる。
「沙惠子の方は何となくイメージができるんです。憎悪がない美緒みたいかな、って」
「うん」
「新開監督にもそのイメージで間違いはないと言って頂きました」
「君の持つイメージの沙惠子で、浩一を惹きつけることはできる、と?」
「おそらく……沙惠子はミステリアスで浩一を惹きつける要素はたくさんあるみたいですし……」
「ああ、スタッフでも話題になっていたね。ミステリアスな女性に男性は惹かれやすいからね。特に若い男は」
「はい。男性スタッフでも沙惠子の人気が高いと聞いていますから、きっと浩一を惹きつけるものは役としてつかみやすいと思うんです。でも……」
「問題は、沙都子の方?」
蓮の問いに、キョーコは頷く。
「はい。子供のような沙都子のどの部分に大学生の浩一が惹きつけられるんだろう、と思うと……どうしたらいいのかわからなくなってしまって……」
「なるほどね……」
「初めは森に住んでいる、というだけで浩一は興味を示すと思うんですが……森に通い続けるということは、それ以外の魅力を沙都子に感じるということでしょう?それをどう表現したらいいのかが分からなくて……」
キョーコの言葉に、蓮はしばし考え込む。

「ねぇ、最上さん」
ほんの十数秒。けれどもキョーコにとっては永遠のように感じた沈黙を破ったのは蓮。
「浩一のことは抜きにして……最上さんの中では沙都子はどんな子なのか、イメージはできているの?」
「え……?そう、ですね……」
キョーコは少し考えて、言葉を探す。
「脚本にもあるんですが……沙惠子とは対極にあたりますよね。実年齢よりはるかに幼くて……純粋なんだと思います」
「うん」
「それでいて……浩一に興味があると思うんです。森に入ることができた、貴重な人間だから」
「他には?」
「興味があるけれど……知れば知るほど浩一のことは怖いと感じていく……浩一は大人の男の人だから。あ、でも……」
自分の思い描く沙都子像をくるくると表情を変えながら語るキョーコ。
蓮はそれを目を細めて相槌を打ちながら、聞いていた。

(なんだ……ちゃんと役作り、できてるじゃないか)
蓮は1つ小さく頷くと、こほりとひとつ咳ばらいをした。それに気付いたキョーコは、我に返る。
「あっ……すみません。ついつい語ってしまって」
顔を赤らめてうつむくキョーコに蓮はにこりと笑いかける。
「最上さんの中では……ちゃんと沙都子の役作りができているみたいだね」
「あ……はい……」
「じゃあ、やってみようか?」
「え?」

蓮の突然の提案にキョーコは固まる。蓮はまた、にこりと笑って見せた。
「君の沙都子が俺の浩一を惹きつける要素があるか、試してみるといい」
「え……そんな」
「君の中で沙都子はできてる。その沙都子に、浩一である俺が惹きつけられればいいってことだろう?」
「それは……そうですけど」
「俺だって浩一の役作りが完璧だなんて言えないしね。俺のためにもやってみてくれないかな?」
キョーコのためだけではないのだと蓮が「お願い」してしまえば、キョーコは断ることなどできない。
「分かりました……よろしくお願いします」
蓮の思惑通り、キョーコは承諾する。
「うん、こちらこそよろしくね」


「じゃあ、沙都子と浩一が初めて出会うシーンをやってみようか」
「はい」
森に調査に来た浩一が、何かの声に導かれるようにやってきた森の奥の水辺。
そこで沙都子に出会うのだ。
「沙都子が座っている水辺はそのソファでいいね。俺は1分経ったら入ってくるから準備しておいて」
「はい」
キョーコがシーンの画(え)同様に歩いてくる浩一に背を向けるように座りなおしたのを確認してから、蓮は扉を閉める。

廊下に出てから、蓮は静かに目を閉じる。ゆっくり息を吐いて時間を待つ。
丁度1分経ったのを確認してから、ドアを開けて静かに入る。
キョーコは蓮が出て行った時のまま、こちらに背を向けてソファに座っている。

沙都子の存在に気付いた浩一は、ゆっくりと近づいていく。
その途中で小枝を踏んでしまい、沙都子に気付かれてしまうのだ。
蓮が足を止めたタイミングが合図。キョーコがばっと立ち上がり、振り返った。

大きく見開かれた瞳は、まっすぐに蓮を射抜く。
蓮は足を止めて、キョーコの視線を受け止めた。
しばらく2人は見つめ合っていたのだが、キョーコが急にこてん、と首を傾ける。
「あなたは、だぁれ?」

17歳のキョーコから発せられたとは思えないほど、舌足らずの幼い声。
それは遠いあの日に河原で出会った少女の姿と重なって。
蓮は目を見開いた。

沙都子を憑けたキョーコは、蓮に近づいてくる。
「ねぇ、あなたは、だぁれ?妖精さん?」
蓮の目の前で立ち止まり上目づかいで見上げて小首をかしげるその姿に、目が離せなくなった蓮。
(これは……キョーコ、ちゃん……?)
自然とキョーコの頬に手が伸び、するりとキョーコの頬をなでる。

「あ、あの……えっと……敦賀、さん?」
呼びかけられて蓮は我に返る。そして自分の手がキョーコの頬に触れていることに初めて気づく。
「あ……ご、ごめん」
蓮は慌てて手を引っ込める。キョーコは少しばかり言いにくそうに続ける。
「いえ……アドリブかと思ったのですが少し間が長すぎる気がして……その、浩一のセリフがないと次に進めない、ので……」
「あ、ああ。ごめん……ちょっとセリフが沙惠子との出会いのシーンと混同しちゃってとっさにでなくなっちゃったんだ」
「ああ、そうだったんですね。そうえいえば沙惠子との出会いのシーンも同じ水辺ですし、よく似ていますもんね」
苦しい言い訳だと思ったものの、キョーコが「敦賀さんもそんなことがあるんですね、安心しちゃいました」とにこにこと笑っているあたり、信じられたらしい。
蓮はそっと安堵の息を吐いた。
(まさか……キョーコちゃんそのものだったことにびっくりして……演技を忘れただなんて言えないよな)

「それで……敦賀さん」
「ん?」
「少しだけでしたけど、どうでしたか、沙都子は……」
不安そうに尋ねてくるキョーコ。すっかり引き込まれていたのだが、それをありのままに伝えるわけにはいかない蓮は言葉を選ぶ。
「そうだね。これまで演じたどの役とも違うし、素の最上さんでもなくて……魅力的だと思うよ」
「本当ですか?!」
蓮が頷いて見せると、キョーコは頬を紅潮させてもじもじと俯く。
「敦賀さんにそう言っていただけると……自信が持てます」
ちらりと蓮を見、視線が合うと恥ずかしそうに笑うキョーコの姿に……また蓮の手が伸びそうになる。
(……っ……どうしてくれようかこの娘は……)


そしてその後すぐにクランクインした『硝子ノ森』の撮影の間。
蓮は沙都子にも沙惠子にも、そして素のキョーコにも「惹きつけられる」どころか理性を揺さぶられ続け、それを必死で隠さなくてはならなかったのだった。

しかしそれが、沙都子や沙惠子をめぐって揺れる浩一の演技に深みを与え。
京子の演技力とあわせて高評価を得、『硝子ノ森』は予想以上の大ヒットとなったのであった。

【END】

******************************

蓮さんは、キョーコさんならどれでもやられちゃうよ、という話を書きたかったのです。
『硝子ノ森』本編も書いてみたい気はするけど、自己満足もいいとこだし終われないのが分かっているのでやめておくー。
そのうちネタだけ吐き出すかも?



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