2014/11/30

Omatsuri~不思議の夜・久遠~ 前編

時系列の非常にややこしい「Omatsuri」シリーズ。
こちらは、一番最初のお話「Omatsuri~不思議の夜~」の久遠視点になります。
「Omatsuri~不思議の夜のその先に~」の後に読んで頂く方が分かりやすいかも?

※「Omatsuri」シリーズについて※
 ・一番最初にあたるお話は、企画参加作品「Omatsuri~不思議の夜~」
  まずはこれを読むのがおすすめ、というより読まねば他が分かりません。
 ・シリーズに含まれるのは「不思議の夜」の松太郎編、久遠(前後)編、
  「不思議の夜のその先に」はキョーコ編(記載はありません)、蓮編の
  全5話(6話)。
 ・「Omatsuri~不思議の夜のその先に・蓮~」が完結編となります。
  (蓮編は、霜月さうら様からの頂き物です)
 ・その他のシリーズ作品は、どの順に読んでも問題はないはず。
  順番は最初と最後だけが大事なのです。
 ・ぶっちゃけ最短で読む!という方は……
  「Omatsuri~不思議の夜~」
  「Omatsuri~不思議の夜のその先に~」
  「Omatsuri~不思議の夜のその先に・蓮~」
  だけで十分なのではないかと思います。
 ・けれどもやはり、完結編は全ての作品をお読み頂いてからの方が
  楽しんで頂けると思います。




ぼんやりとした明かりに照らされた、祭り会場。
ずらりと軒を連ねる露天も、人が輪を作る盆踊りも、心地よいリズムで奏でられる笛や太鼓の音も、全てが見慣れぬ風景で心を弾ませていたのに。
大好きな父がいなくなってしまってからは、何一つ心惹かれるものはなくなってしまった。

父に誘われてやってきた日本。
仕事に忙しい父が、時間がとれたからと誘ってくれた祭りはアメリカにはない珍しい光景だ。
何もかもがもの珍しく、見るもの全てが楽しくてたまらなかった。
……ついさきほどまでは。


「すまない、久遠!」
グレーに格子模様の入った浴衣を身に着けた父は深々と頭を下げる。
只でさえも長身で、顔のいい父は人ごみで目立つ。大きな声を出して頭を下げれば、なおのこと目立ってしまう。
実は金の髪に白い浴衣という自分の出で立ちも相当目立っているのだが、そのことに気付かない久遠は周囲の目線を気にしつつ、頭を下げたままの父に話しかける。
「とうさん、顔を上げて。仕方ないよ、仕事なんでしょ」
「久遠……」

久遠の父はハリウッドスターだ。
今回の来日も、来週から日本でも公開されるという映画のPRのため。
それらがすめば、少しは休暇をとれることにはなっていた。
東京でのテレビ出演を終えて、出身地近辺での舞台挨拶も予定通りに終了させたのだが。
過去に日本で活動していた経歴を持つ父の仕事はそれだけでは終わらず、短い来日期間に予定のなかった仕事がどんどん入り、あちこちひっぱりだこにされているのだ。

「おれはこのまま、祭りを楽しむから。とうさんは仕事に行ってよ」
「でも……」
今回のは突発的なものだから、久遠が「行くな」と言えば、この父はあっさりと久遠との時間を優先してくれるだろう。
しかし久遠は父にくっついて日本にきただけ。最優先されるべきは仕事だ。

「ほら、あんまり待たせたら悪いでしょ。早く行って」
久遠はしょんぼりとうなだれる父の手をとり、迎えに来た2人組の男の方へと引っ張っていく。
そして強引に背を押し出した。
「はい。いつまでもきりがないから、連れていってください」
迎えの2人にそう言って父を押し付けると、振り向いた父は何とも情けない顔をしていた。
「とうさん、大スターがそんな顔するなんてみっともないよ……」
「久遠……」
「おれは平気だから。とうさんが花火を見るのにいい、って言ってたところで花火を見たらちゃんと帰るから」
「でも……」
「ぐだぐだ言わないで早く行って終わらせてきてよ。おれ、そっちの方がずっといい」
久遠が言うと、父はしぶしぶ、といった様子で迎えの2人の指示に従う。
のろのろと動き出した父を見て、久遠はふっと息を吐いたのだが。
何度も振り返り、「超特急で終わらせて帰るからなーーー!」と叫ぶ父を見て、また別の息を吐いたのだった。


「さて、と……」
父の姿を見送ってから、久遠は再び祭り会場の方へ足を向けてのろのろと歩き出した。
もうすぐ花火が始まる時間。久遠は父に教えてもらった「花火を見るのに絶好のスポット」に向かう。
(……なんだろう……)
ずらりと軒を連ねる露天も、人が輪を作る盆踊りも、心地よいリズムで奏でられる笛や太鼓の音も、みんな。
(つまらないな……)
父がいなくなってから、景色は一変してしまった。

ぶらりぶらりと、目的地に向かって人ごみのなかを歩く。
駆けていく子ども、寄り添うカップル、露店を楽しむ家族連れ。
賑わいの中を歩いているはずなのに、久遠は自分がどこか遠い存在であるかのように感じた。
ひとりだけ、違う世界に放り込まれてしまったみたいに。

(やっぱり、帰ろうかな……)
人ごみが途切れた広場まで来たところで久遠がふと足を止めたとき、とん、と足に軽い衝撃を感じる。
その直後に、どしん、という鈍い音。
久遠が足元を見ると、ちょうど久遠のすぐ横で小さい女の子が地面に膝をついていた。
どうやら久遠の足に躓いて転んでしまったらしい。

「だいじょうぶ?」
久遠がしゃがんで声をかけると、女の子の目にはみるみる涙がたまる。
「どこかいたい?」
久遠が尋ねると、女の子はぽろぽろと涙を流しながら、膝を指差した。
「ちょっと見せてね」
ショートパンツから延びる膝は少し赤くなっていた。少し皮が傷ついているのかもしれないが、出血はしていない。
「……うん、このくらいならだいじょうぶだと思うよ」
久遠が頭を撫でて優しく言うが、女の子の涙は止まらない。
さて、どうしたらいいだろう。そもそもこんなに小さい子なんだから、親が近くにいるはずだけど……
久遠はきょろきょろとあたりを見回す。その時、袖に放り込んでいたものの存在を思い出した。
(そうだ……)

「はい、これあげる」
久遠が袖から取り出したのは、ちいさなウサギのマスコット。
先ほど、父と露店めぐりをする中、チャレンジしてみた射的で手に入れた景品だ。
射的には自信がある!と挑んだ割には、的が小さくて久遠が手に入れた景品はこれだけ。
それでも父に「筋がいいな」なんて褒められて。大事に袖に入れてあったものだ。
女の子は久遠の差し出したウサギを見ると「かわいい!」と目を輝かせた。
久遠が女の子の手にウサギを乗せてやると、女の子はすっかりそれに夢中になり、涙は引っ込んでしまったようだ。

(さて、本当にどうしたらいいかな)
久遠は立ち上がり、きょろきょろと周りを見回していると。
血相を変えてこちらに駆け寄ってくる男性が見えた。
「あっ!パパ!!」
女の子は立ち上がり、男性の方へかけていく。
「まったく!急にいなくなって心配したじゃないか!!」
どうやら父親が迎えに来たらしい。久遠がそちらを見ていると、父親が怪訝な顔を向けてきた。
それに気付いた少女があわてて手に持ったウサギを父親に見せる。
「パパー!あたし、ころんじゃったけど、あのおにーちゃんがたすけてくれたの。これもくれたよ」
「そうだったのか」
少し離れたところから、父親が久遠に向かって頭を下げる。
久遠もそれに会釈で応じると、父親は女の子の手を引いて、露店の立ち並ぶ方へと歩いて行った。

(よかった……)
2人の姿を見送ってから、久遠はゆっくりと立ち上がる。
安堵と共に久遠の元に訪れたのは、さみしさ。
あの子は父親が迎えに来た。
自分は父を送り出したばかりで、ひとりぼっちだ。
(やっぱり、帰ろうかな……)
そう考えたときだった。

ぱあっと空が明るくなり、続いてどぉん、と大きな音が響く。
久遠も近くにいた人々も一斉に空を見上げる。
「花火……始まった……」
赤や青の細い光が次々と空に昇っては、ぱあっと広がって消えていく。
色とりどりの光が四方八方に飛び散っていくもの、オレンジの光がばらばらと音を立ててはじけていくもの、大輪を描くもの。
久遠はそこに立ち尽くし、空に打ち上げられては散っていく火の花に見とれていた。

ほどなくして、光も音も急に消えてしまう。
それと同時に戻ってきたのは人々の声。
(花火、終わったのかな)

父と約束した場所ではなかったが、一応花火を見ることはした。祭りを楽しんだことになるはずだ。
父との約束は果たしたのだからもうここには用事はない、と久遠は祭り会場を離れようと露店の立ち並ぶ通りの脇へと歩みを進めようとしたとき。

――― あの子が 泣いてるよ ―――

声が聞こえた。
久遠は慌てて振り返るが、行きかう人々は久遠のことなど気に留めた様子はない。
きょろきょろとあたりを見回すと……ずいぶんと遠くに1人、久遠を見つめる存在があった。
黒地の浴衣をまとった長身の男。白い狐の面で顔を隠している。
(何……)
久遠を見つめているのはその男1人。
しかし、久遠と男は通路を挟んでおり、人々も行きかっている。到底声など届くはずもない。
じゃあ声の主は誰だったのかと久遠が不思議に思っていると、男は少しばかり面をずらした。全く見えなかった顔が、口元だけが見える状態になる。

――― あそこで、君の大事なあの子が泣いてるよ ―――

また声が聞こえた。
その音を紡ぐのと同じ形で、男の口が動く。
(え……?)
この距離で、あの男の声が届いたのだというのか。
久遠が目を真ん丸にして男を見つめていると、男の口は笑みを作り、すっとある方向を指差した。
久遠は導かれるようにその指差す方を見た。指は祭り会場の先にある山の方を指していた。
(あそこに何かがある?)
久遠が視線を戻すと……もうすでに、男の姿はそこになかった。
(えっ?!)
久遠は急いで男の立っていたところに向かうが、そこに人の姿はなかった。
周囲を見回してみても、それらしい男の姿を視界にとらえることはできなかった。

「あの人は、一体……」
あの男は、あちらの方で久遠の大事な子が泣いている、と言った。
大事な子と言われても誰のことだか見当がつかなかったが、男の言葉は気になった。
少しの間、男の指差した方を見つめていた久遠は決意する。
(どうせ帰るつもりだったし)
おかしな幻を見ただけかもしれない。けれども、確かめる価値はあるのかもしれない。

「おじさん、あっちの山の方に何かある?」
すぐ隣の露店で暇そうにしていた店主に、久遠は尋ねる。
「あ、ああ。小さい神社があるよ」
金髪の子どもに突然話しかけられて男性は驚いた様子を見せたが、すぐに答えてくれた。
「ありがとう!それから……それをください」
道を尋ねるだけというもの気が引けた久遠が指差したのは、白い狐のお面。
ずらっと展示されたお面の中からこれを選んでしまったのは、先ほどの男の影響だろう。

店主にお金を払ってお面を受け取ると、久遠は神社の方へとかけだした。

【NEXT】
******************************

うっかり長くなってしまったので、前後編に分けます。
原因は間違いなくクーパパであります。
クーパパ好きだから仕方ない!

素敵スキビサイト様への玄関口。
スキビ☆ランキング


関連記事
完結:Omatsuri