2014/07/14

No.1おまけ話 ~キョーコと蓮と、社~

「No.1をめざせ」おまけシリーズ。
初練習よりずいぶんと時間が経っている模様。
今回の社さんは不憫じゃないよ?


No.1おまけ話 ~キョーコと蓮と、社~


朝一番に「今夜、社さんの舌と胃袋をお借りしたいんです」と担当俳優から告げられた社は、何事かと思ったのだが。
「仕事がいつもより早く18時半終わるから、一緒に食事をしてほしい」ということだと知り、普段は食に興味のない担当俳優が積極的に食事をすると言いだしたことに感動し、二つ返事で快諾した。

「まさかお前から夕食の誘いがあるなんてな~俺は感動したよ」
蓮の運転する車の中で、うんうんとうなずく社を見て、蓮は苦笑いする。
「そんな大げさな……」
「いや!お前は普段から食わなさすぎるからな!積極的に食べたいと言っただけで感動ものだ」
びしり、と蓮を指差す社に、いつも苦労をかけていると自覚のある蓮は返す言葉がない。
「はは……それじゃあ、今日はもっと感動してもらえるかもしれませんね?」
「は?」
「いえ……何でもないです。じゃあ、20時に俺のマンションまで来てもらえますか?」
「え?仕事帰りに行くんじゃないのか?」
当然、仕事終わりにそのままどこかに行くのだと思っていた社が首をかしげると、蓮はちょっと困ったように頷いた。
「すみません。こちらから誘っておいて時間まで指定して」
「ああ、別にかまわないよ。ちょうど事務所で溜まった書類を片づけたらそのくらいになるだろうし」
今やっとくと後が楽になるし、と付け足した社に、蓮は「お疲れ様です」と小さく頭を下げる。
「少し遅くなりますけど、迎えに行きましょうか?」
「いや?わざわざ時間指定してまで、ってあたり、お前にも都合があるんだろ?自力で行くよ」
「そうしていただけると、助かります」
蓮は何かを隠している。つつくのも楽しいが、今日の夜になれば分かることだと社は追及をやめ、今日の仕事の確認に話を持って行ったのだった。


予定通りに仕事は進み、蓮と社は18時半すぎには事務所で別れた。
蓮は自宅に戻り、社は事務所で事務仕事をして迎えた20時。
社は時間通りに蓮のマンションを訪れる。
(さーて、蓮は一体何を企んでるんだ~?)
「食事をしたい」というだけでも驚きだが、わざわざ社を時間指定までして自宅に呼ぶ、というのもまた驚きである。

蓮にあらかじめ渡されているカードキーを使い、エントランスを抜けてエレベーターへ乗り込む。
ワンフロア全てが蓮の自宅だというマンションにも通いなれている社はエレベーターをおりてまっすぐ蓮の部屋に向かう。
蓮の部屋の扉前に立って、社がインターホンを押すと……

「お疲れ様です、社さん!」
「え?キョーコちゃん?!」
扉を開けたのは、薄いピンク色のエプロンをつけたキョーコだった。

「私が出ちゃって、驚かせちゃいましたね。敦賀さんは手が離せなかったもので……」
「手が離せなかった、って……?」
靴を脱いで上がろうとする社の鞄をキョーコはさりげなく取り、奥へと案内する。
「あれ?聞いていないんですか?今日は敦賀さんが1人でハンバーグを作っているんですよ」
「へ?」
「敦賀さんってば、社さんを驚かせるつもりだったんですね。言わない方がよかったのかもしれませんね?」
くすくすと笑うキョーコに社は眼を丸くするばかりだ。
「蓮が、料理をする?1人で?」
「はい」
「本当に?」
「本当に、です」
「あの料理音痴が?」
「そうです」

蓮が料理音痴であることは否定しないキョーコ。くすくすと笑っている。
「敦賀さんがお料理なんて驚きますよね。でも、『No.1をめざせ』の収録の後、打倒クー・ヒズリに向けて頑張って練習しているんですよ」
「へー……あの後にも続けてたんだ。ひょっとしてキョーコちゃん、ずっと練習に付き合ってくれてたの?」
「はい」
蓮が早く帰る日にキョーコに何やら依頼をしているのは知っていた。
きっと夕食作りだろうと思っていたら、実はこんな裏があったとは。
社はふーっとため息をつく。

「それで……大丈夫なのかな?その、蓮の料理」
「はい。大丈夫になったから、社さんをお呼びしたんですよ」
じゃあ大丈夫になるまではずっとキョーコちゃんが付き合ってくれてたのか。
『No.1をめざせ』の収録前に蓮と社の二人で行った練習を思い出し、社はキョーコを拝みたい気分になった。
「結構大変だったんですよ。最初なんて、せっかくできたハンバーグソースを煮込めばいいだけなのに、片栗粉を入れちゃって」
「何、それ?」
「とろみをつけてください、って言ったら水溶き片栗粉を入れちゃったんです。中華料理じゃあるまいし……」
「なるほど、ね……」
「そのあとも結構色々失敗はしたんですけど。何度も練習してもう大丈夫かな、ってことで今日は社さんにも食べてもらうことにしたんですよ」
2人はリビングに入る。

「もうすぐできるはずですから、こちらで待っていてください」
キョーコは社の鞄をソファに置き、社にローテーブルの前に座るように促す。
すると丁度そのタイミングで、キッチンから蓮が現れた。

「すみません、社さん。ちょっと手が離せなかったもので」
キッチンから現れた蓮もまた、エプロン姿だ。薄い青色のそれは、キョーコのものとそっくりだ。
それもそのはず、エプロンには有名な料理番組のロゴがプリントされている。先ほど社は気づいていなかったのだが、キョーコのものにも同じロゴが入っている。
(ふーん、へーぇ。ほぉーお)
蓮の姿とキョーコの姿を見比べて、社はにやにやと笑いたくなるのを押さえこむ。

「今キョーコちゃんから聞いたんだけど、お前が料理してるんだって?」
「はい。ちょうどいま出来上がったところです」
言って蓮はちらりとキッチンを見る。そのあと、キョーコに視線を移す。
「最上さん、盛り付けも終わったから、運んでもいいかな?」
「はい!あ、その前にテーブルをふきますね」
キョーコはさっとキッチンへと消える。ざあざあと水音がし始めたところからするに、ふきんを洗っているのだろう。

「……れーんくん」
「……何ですか?」
「とりあえずおにーさんは色々言いたいことがあるぞ」
「……何を、ですか」
にやにやと笑う社に、蓮はため息をつく。
「とりあえずそのエプロンについてかなー?何気にキョーコちゃんとお揃いじゃないのか、それ?」
「別に意味はありませんよ。最上さんに毎回エプロンを持ってきてもらうのも悪いと思っていたところに、料理番組に出た記念品でエプロンをもらいましたから、最上さんにも使ってもらっているだけですよ。社さんも知っているでしょう?」
「そういやそうだったかなー」
ひと月ほど前、有名料理番組にゲスト出演することがあったのは事実だし、その時に記念品としてエプロンを渡されていたのも社は知っている。
エプロンを受け取ったのはほかでもない、社だったからだ。
しかし、その時に渡されていたのは確か男物の一枚だけだったはずだ。
(……つまりは、後からわざわざもらったってことだよなー?)
そのことを突っ込んでやろうと社は口を開きかけたが、キョーコがキッチンから戻ってきてしまった。

「敦賀さん、ふきんを洗うついでにご飯をお皿に盛って、カトラリーもバスケットに入れておきましたから」
「ああ、ありがとう」
「テーブルを拭いて、こちらを用意しておきますね」
キョーコはてきぱきとテーブルを拭き始め、蓮はキッチンに戻る。蓮につっこみをいれそびれた社は、手持無沙汰になってしまった。
「キョーコちゃん、何か手伝えることはある?ただ座ってるのも何か悪いしね」
「あ、それじゃあ、そこのランチョンマットをセッティングしてくれますか?」
「了解」
社がソファの隅に用意されていたランチョンマットをテーブルに広げ始めると、蓮がお盆にハンバーグプレートを乗せて運んできた。
「最上さん、悪いけど……」
「はい!ご飯をお持ちしますね。それからお水も」
蓮がみなまで言わないうちに、キョーコはすっくと立ち上がってキッチンに消える。

「ふーん……」
蓮が料理と一緒に運んできたカトラリーを並べながら、社がじっとりとした視線を蓮におくる。
ハンバーグの乗ったプレートをランチョンマットの上に並べる蓮は、居心地が悪くてたまらない。
「……さっきから何なんですか、もう」
「べーつーにー」
「言いたいことがあるなら、言えばいいじゃないですか」
「小出しにしてもいいけど、あとでまとめていうことにするよ」
「は……?」
蓮が配膳を終えたところで、キョーコが戻ってくる。

「お待たせしました」
キョーコがご飯の乗った皿を配膳し始めれば、蓮は水をグラスに注いでセッティングする。
2人の無駄のない動きで、あっという間に食事の準備が整う。社はそれを感心して眺めていたのだった。


「社さん、どうぞ」
デミグラスソースがたっぷりかかったハンバーグ。
付け合せは人参といんげんのソテー、バターコーンとフライドポテト。
「これって『No.1をめざせ』の時と同じメニュー?」
「はい」
「でも、ハンバーグソースは違うんですよ!とうさ……いえ、Mr.ヒズリが作ったハンバーグソースを再現したんです」
「へー……」
そんなことまでしてたのか、と社は感心しつつ手を合わせる。
「それじゃあ、いただきます」

社がハンバーグを一口分切り取り口に運ぶ様子を、社の正面に座った蓮とキョーコは固唾をのんで見守る。
社が咀嚼して飲み込むまで、じーっと見つめてくるものだから、社は落ち着かないが気にしないことにする。
社は飲み込んでから、咳払いを一つ。そして……
「……うまい」
社は素直に感想を述べる。
「俺と一緒に作ってたやつとは段違いだよ。あっちはそう、やっぱりなんか嘘くさい感じがしたけど、これは濃厚っていうか口に広がる味わいが違うって言うか……とにかくうまい!」
社が言うと、蓮とキョーコがぱあっと顔を輝かせる。そして2人は顔を見合わせてぱちんとハイタッチした。
「やりましたね敦賀さん!合格ですよ!」
「うん。ありがとう最上さん。最上さんのおかげだよ」
「いえいえ。敦賀さんががんばったからですよ!これで次回からは新レシピの研究にも入れますね!!」
きゃっきゃっとはしゃぐキョーコは本当に嬉しそうで。それを見守る蓮の笑顔は甘く溶けていて。
社は居たたまれない。

「ちゃんとおいしいことが分かったみたいだし、2人とも一緒に食べようよ」
社が言うと、2人ははっと我に返る。
「そ、そうですね。あっ!敦賀さん、エプロンしたままじゃないですか」
「あ、うん……」
蓮がエプロンを外すとキョーコはさっとそれを取り、自分の分とまとめてソファにかける。
キョーコが戻ってきたところで、蓮も手を合わせて食事を始めた。

「本当においしいです!これ、あの時に食べた先生のハンバーグの味、完璧に再現できていますよ!」
「へー。確かにこれは大絶賛されてたのも分かるなー。少なくともあの時に蓮が作ったハンバーグとは、雲泥の差だ」
「ですよね!……あ、敦賀さん、決してあの時のハンバーグがおいしくなかったというわけではなく……」
「うん、分かってるよ。ところで最上さん、「先生」って呼んでるけどいいの?」
「はぅっ!でも、社さんの前では「とうさん」と呼ぶのもどうかと思いまして……」
「でも、いざという時に「先生」って呼んじゃったら怒られるんじゃない?普段から慣れておく方がいいと思うけど……」
「それはそう、なんですが……」
「え?何?キョーコちゃん、クー・ヒズリを「父さん」って呼んでるの?」

蓮の作ったハンバーグを食べながら、話は弾む。
他愛のないおしゃべりを続けるうちに、あっという間に時刻は23時を迎えていた。

「わっ!もうこんな時間じゃないか!やばいなー。明日早いんだった……」
明日は蓮の入りは遅めだが、社はその前に松島と打ち合わせの予定が入っているのだ。
蓮もすっかりそのことを失念していた。
「すみません、遅くまで……」
「いや、俺も長居しちゃって悪かったな。片づけくらいはするよ」
「いえ、社さんはこのまま帰ってください」
「悪いなぁ……」
言いつつもまだ打ち合わせ前に必要な資料を帰宅してから用意しなくてはならない社は、蓮の言葉に甘えることにして鞄を持って立ち上がった。

「じゃあ俺は、これで……」
「あ。最上さんも、今すぐ送るから」
「へ?」
急に話をふられたキョーコは、間の抜けた声を出す。
「もう遅いからね。ごめんねこんな時間まで」
「い、いえ!それより片付けが……」
「片付けは君を送った後に俺がやるから」
「そ、そんな!敦賀さんには作っていただいたんですし、私がやります!」
「それこそ悪いよ。今まで練習にも付き合ってもらったんだし、ね?」
「でも……」
キョーコはなかなか首を縦に振らない。そこで蓮は1つ提案をする。
「じゃあ、一緒に片づけてくれる?1人でやるより早いだろうからね」
「はいっ!」
キョーコは大きく頷いて立ち上がる。
「さっと洗っちゃいますから、敦賀さんは食器を拭いて片づけるのを手伝ってください」
「うん」

にこにこと笑うキョーコに、優しい笑みで答える蓮。
キョーコはさっとピンクのエプロンを付けると、青いエプロンを蓮に渡した。
それを見ていた社は、思わずぽそりとこぼしてしまう。
「なんかさー……やっぱり新婚さんみたいだよね」
「へっ?!」
「いちいちキョーコちゃんがかいがいしく蓮の世話やいてるっていうかさ。それがすごい動きが自然なんだよねー。それに俺が入ってきたときもさりげなく鞄持ってくれちゃったし」
それっていつもキョーコちゃんが蓮にやってるから?と社が尋ねると、キョーコの顔は真っ赤に染まる。
「エプロンだってお揃いだし?やたらと準備や片づけも2人で分担するのにこなれてるしさー?俺、新婚さんの新居に呼ばれたお邪魔虫みたいだなーって」
「そそそそ!そんな敦賀さんと新婚だなんて恐れ多い!!冗談はやめてください!」
言いながらキョーコは慌てて食器を重ねようとしたのだが、つるりと手がすべり、床に皿を落としてしまう。
「あっ」
皿はがしゃんと派手な音を立てて、割れてしまった。

「すみません敦賀さん!!すぐに片づけますから!!」
キョーコは慌てて飛び散った破片を拾い集めようとするが、二つ目の破片を触ったところで小さな悲鳴を上げて手を引いた。
「もしかして、切った?」
蓮はさっとキョーコの元に駆け寄り、引いた手を取り指を確かめる。
人差し指の先が切れたらしく、ぷくりと血のふくらみができていた。
「あ、あの……」
顔を真っ赤にさせたキョーコが蓮から逃れようとするが、蓮は手を離さず、それどころか……
ぱくりとキョーコの指を口に入れたのだった。
「……っ!」

あまりにも自然な動きにあっけにとられてしまったが、さすがの社もこの行動には顔を赤くする。
キョーコはというと、顔をこれ以上ないくらい真っ赤にして目をぐるぐると回している。
「つつつつつつ……敦賀さん?!はははは、離していただけませんかぁあ!」
やっとひりだしたキョーコの声に、蓮は我に返ったらしい。
「ご、ごめん」と小さく謝ってキョーコから離れた蓮の顔には、表情がない。
キョーコの顔を見ることなくすっと立ち上がった蓮はどこからともなく小さな箒とちりとりを持ってきて、皿の片付けを始めた。
キョーコはぎゅっと手を握り締めて、それを見守っている。

(あー……あれは照れてる。照れてるなー……。完全に無意識にやっちまった、って感じだな……)
担当俳優の行動パターンを把握するマネージャーの社は、急に冷静になる。
(しっかしいつの間にか、すっかりいい雰囲気になってるんじゃないか、この2人)
無言でありながらも2人の間に流れる甘ったるい空気を感じて社はまた居たたまれなくなり、とっととその場を去ることに決める。

「それじゃあ悪いけど俺は先に帰るよ」
「あ、はい」
「色んな意味でごちそーさん」
社の言葉に蓮は首をかしげたが、説明する気がない社はそのまま続けた。
「蓮、デザートはやめておけよー?せっかくいい感じでも、急くと逃げられるぞ?」
「は?」
爆弾を落とすことは忘れない。
首をかしげるキョーコと「何を言うんですか」と息をのむ蓮ににやりとたちの悪い笑みを向けてから、社は蓮の部屋を後にしたのだった。

【END】
******************************

本編はノンシュガーだったのにどうしてこうなった?

素敵サイト様への入り口。
スキビ☆ランキング
関連記事
No.1をめざせ おまけ